2017年7月12日、英国最高裁は係争中のアクタビス/イーライリリー訴訟に判決を下しました。この判決は、侵害訴訟におけるクレーム範囲の解釈に大きな影響を及ぼす可能性があり、英国特許法に出願経過禁反言を明示的に取り入れるものです。
判決では、保護範囲を決定する際の最初に、当該発明と同様に機能するがクレームの厳密な字義通りの表現には含まれない均等物が明確に考慮されています。
判決
[2017] UKSC 48は、特許出願プロセスの上流においても重大な意味を持ち、出願係属中の商業的意思決定にも影響を及ぼす可能性があります。
以下に、この決定の重要なポイントと、考えられる影響についての我々の初期見解を示します。なお、この重要な判決が持つ包括的な意味を検討した際には、さらなる見解を提供する予定です。
イーライリリーは、がん治療のためのペメトレキセドの特定の塩とビタミンB12のスイス型医薬用途に関する特許クレームを有しています。注意すべき重要な点は、実際の発明概念がペメトレキセドとビタミンB12の組み合わせにあることです。この組み合わせで使用することで、そうでなければ毒性であるペメトレキセドが治療用組成物での使用に適したものとなります。明細書はしかるべく記載されており、出願経緯によると、クレームは、サポートの欠如と新規事項追加の拒絶理由に対処するため、ペメトレキセドを包含する極めて広い活性薬剤の官能基の定義からペメトレキセドの特定の塩に減縮されています。
アクタビスは、ペメトレキセドの別の塩とビタミンB12を含む3つの製品に侵害性のないことの宣言を求めました。これまでに高等裁判所および上訴裁判所で非侵害の判決が下りましたが、その後、最高裁では、均等論を効果的に採用することにより、クレームの非字義的解釈に基づいてアクタビスの製品はイーライリリーの特許を侵害しているという判決を下しました。
侵害を判断するためのImproverテストの改変
キリン・アムジェン社他対ヘキストマリオンルセル社他の訴訟、[2004] UKHL 46において最高裁で採用されたクレーム解釈への最高レベルの原則主導アプローチからの脱却において、最高裁は事実上、非字義的侵害へのより構造的なアプローチに戻りました。このアプローチはCatnic Components Ltd 対Hill & Smith Ltdの訴訟 [1982] RPC 183で導入され、その後Improver Corp対Remington Consumer Products Ltdの訴訟 [1989] RPC 69で発展したものです。
これを行う上で最高裁はImprover質問の質問 (2) を再検討して後者を改変し、実際には数年後まで実現しなかった場合もあり得る、優先日における当業者の知識を盛り込みました。これは、特許出願係属中の特許性評価のために当業者が有する知識との著しい対比を成しています。
侵害判断時に今や問われるべき質問は、当業者が優先日において、しかも変形例が機能することを知っている場合に、変形例が実質的に当該発明と同じやり方で実質的に同じ結果をもたらすことが自明であると考えたかどうか、つまり、(機能する) 変形例がクレームの発明概念を利用していることが自明どうかです。このように解釈すると、出願時において予見される変形例のみならず、数年後に開発されたかもしれないが(現在は機能することが分かっている)優先日から見て当該特許の発明概念を使用していると考えられる変形例も、クレームの対象となりうるのです。
このようなアプローチは、特定の変形例が出願時に発明の一部に含まれると考えられていたがサポートデータの欠如等の理由でクレームから除外されたという状況において明らかな影響を有しています。2つめのImprover質問の改変によって、このサポート欠如が本質的に解決されています。というのも、当業者が今や変形例が機能することを知っているためです。
これにより、サポートが欠如していたため審査時には削除されたこれらの変形例も、今や特許クレームの対象になる可能性があります。したがって、これに鑑み、出願人は、広いクレーム範囲がサポートされていないが技術的にはもっともらしい、上記の改変なくしては狭くかつ商業的な魅力に欠けるクレームの価値を再検討することを望むかもしれません。
同様に、この判決は明細書の書き方にも影響を及ぼす可能性があります。例えば、出願人がきわめて狭い実施形態の保護を望む場合であっても、既知の従来技術次第では、広めに明細書を書くことが有益であるかもしれません。
英国特許法における出願経過禁反言の取り込み
この事件では、裁判所は、行われた補正およびそれらの背景理由 (つまりサポートの欠如と新規事項の追加) に基づいて、出願経緯が関連しているとは見なしませんでしたが、a) 特許明細書からの解釈に限定したとき争点が本当に不明瞭である、または b) 出願内容を無視することが公益に反する場合には、出願経緯が合法的に参酌される可能性があると述べています。
「公益に反する」とは、クレームに字義的に包含されていない主題を除外するという明らかな記述または補正が出願係属中(例えば新規性欠如の拒絶理由にへの対処時)にあった場合のみを意味します。
過去の決定、記述、および補正が特許権者に不利な証拠として使用され得る状況が存在することは明らかなようです。
※本記事は英国ポッター・クラークソン法律事務所(Potter Clarkson LLP)の
こちらのサイトに掲載されるものです。
閉じる