2013.3.15【米国情報】先願主義への移行について

 米国の特許制度が2013年3月16日より先発明主義から先発明者先願主義に移行します。これに先立ち、USPTO(米国特許商標庁)は2013年2月14日に審査基準及び規則の最終版を発表しております。この最終版では、意見公募に付されていた草案と変更されている箇所もあるため注意が必要です。以下、先発明者先願主義の概要に簡単に触れるとともに、草案に対する変更点を踏まえ、実務上重要と思われる事項について説明いたします。


■先発明者先願主義の概要

1.

有効出願日(優先日又は出願日)を基準に新規性や自明性が判断されます(100条(i)(1)、102条(a)及び103条)。すなわち、新規性や自明性の判断基準時が発明日ではなくなります。
2. 世界公知主義が採用され(102条(a))、公知公用販売の先行技術に関する「米国内」の地域的限定が無くなります。
3.



優先日前1年のグレースピリオド(grace period)が認められます(102条(b)(1))。今までは発表から1年以内に米国出願をする必要があったところ、新法下では発表から1年以内に日本出願等で優先日を確保しておけばよいことになります。例えば、発表から6ケ月以内に日本特許法30条(新規性喪失の例外)適用の出願を行った場合、当該日本出願に基づく優先権を主張して優先日から1年以内に米国出願をすれば上記発表は先行技術から除外されることになります。
4.

発明者等が公然開示した後、1年のグレースピリオド内に第三者が開示又は出願した発明主題は先行技術から除外されます(102条(b)(1)(B)及び102条(b)(2)(B))。
5.

同一所有者若しくは同一の者に譲渡する義務がある者、又は共同研究契約により同一所有者等とみなされる者による先願は先行技術から除外されます(102条(b)(2)(C)及び102条(c))。
6. ヒルマー・ドクトリンの廃止により、外国優先日から後願排除効が認められます(102条(d))。
7. 先願が冒認出願であることを立証する冒認手続(真の発明者決定手続)が新設されます(135条)。


■発明者による公然開示後の第三者による中間開示について

 新法102条(b)(1)(B)及び102条(b)(2)(B)では、発明者が公然開示した後、1年のグレースピリオド内に第三者が開示又は出願した発明主題(いわゆる中間開示(intervening grace period disclosure))は先行技術から除外されます。この規定は、先発表により一定の先行技術除外効果を認める点で、米国の先願主義に先発表主義的色彩を与えるものです。
 しかしながら、審査基準の草案では、発明者が公然開示した発明主題と、その後のグレースピリオド内に第三者が開示又は出願した発明主題との間には極めて厳格な同一性が求められ、単なる非本質的な変化やごく些細な又は自明な変更であっても非同一であるとして先行技術除外効果を認めないとする運用がUSPTOにより提案されていました。
 これに対し、多くの批判的意見が寄せられた結果、最終版の審査基準では、同一性の判断基準が緩和され、先発表主義的色彩が強まった内容となっております。具体的には、発明者による公然開示と第三者による開示が同一の様式(mode)である必要はないこと、及び発明者による公然開示が第三者による開示の逐語的な開示(a verbatim or ipsissimis verbis disclosure)である必要はないことが最終版で明記されるとともに、以下の具体例が挙げられております。

  1. 1)発明者が構成要素A, B及びCを公然開示し、その後第三者が構成要素A, B, C及びDを開示又は出願した場合、構成要素Dのみが先行技術となる(構成要素A, B及びCは先行技術にならない)。
  2. 2)発明者が下位概念(species)を公然開示し、その後第三者が上位概念(genus)を開示又は出願した場合、その上位概念は先行技術にはならない。
  3. 3)発明者が上位概念(genus)を公然開示した後、その後第三者が下位概念(species)を開示又は出願した場合、その下位概念は先行技術となる。

 なお、上記発明主題の対比においてクレーム発明は一切関係しておらず、発明者が公然開示した発明主題と第三者が開示又は出願した発明主題との比較で先行技術の可否判断が行われます。
 上記のとおり、最終版の審査基準では、草案よりも先発表(公然開示)による効果が認められやすくなっているとはいえますが、上記具体例3)のように先行技術から除外できないケースもあるため、安易な先発表は控えるべきといえます。


■新法適用出願か否かについて

 2013年3月16日以降になされた米国出願の全てに新法による先願主義が適用される訳ではなく、旧法による先発明主義が適用される出願もあります。新法適用出願か否かは、クレーム発明の有効出願日(出願日又は優先日)によって決まります。具体的には、出願が、2013年3月16日以降の有効出願日を有するクレームを「1つでも」を含んでいればその出願全体に新法による先願主義が適用されます(その後クレームを補正しても旧法適用にはなりません)。したがって、PCT国内移行、RCE(審査継続出願)、及び全クレームが2013年3月16日前の有効出願日を有する米国出願は、旧法により先発明主義が従前どおり適用されることになります。


■新法適用クレームを含む場合の供述書の提出について

 2013年3月16日前の優先権を主張する出願であって、2013年3月16日以降の有効出願日を有するクレームを1つでも含む出願をする場合には、新法適用出願であることを明示すべく、その旨の供述書(statement)を出願若しくは国内移行から4ヶ月以内又は優先日から16ヶ月以内に提出する必要があります(規則1.55(j)及び1.78(a)(6))。この供述書は、審査中に新法適用の新規事項をクレームに導入する際にも提出が必要となります。
 なお、審査基準の草案では、新法適用の新規事項を明細書中にのみ導入した(クレームには導入していない)場合であっても供述書の提出が必要であるとされていましたが、最終版の審査基準ではその必要は無くなりました。

詳細につきましては以下のサイトをご覧ください。
http://www.uspto.gov/aia_implementation/patents.jsp#heading-10
http://www.uspto.gov/aia_implementation/FITF_Final_Rule_FR_2-14-2013.pdf
http://www.uspto.gov/aia_implementation/FITF_Final_Guidelines_FR_2-14-2013.pdf


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